江戸時代からの伝統技法を今につなぐ富山県砺波市の「大門素麺」。
加賀前田藩の御用素麺として能登の蛸島で作られていたものが、大門地区に伝わったと言われています。
今回は、他にはない独自性のある素麺で、希少価値が高い「大門素麵」の謎に迫ってみましょう。
一の謎 形
大門素麺の最大の特徴は、他にはない形状です。和紙の包装紙を開けると、コロンと丸められた麺が4つ入っています。
1袋で3~4人分。75センチの長い半生麺をクルクル巻いて、日本髪の丸まげ状にして乾燥させます。
でも、茹でるとまっすぐになってしまう麺をどうしてわざわざ形作ったのでしょう?
これには諸説あります。
- 昔は麺を野外で乾燥させていました。
雪国富山では急に雪が降ってくることもあり、その都度麺を急いで屋内に移動しなくてはなりません。
棒状のものは折れやすく運びにくいため、現在の形になったという説。
- 北前船によって運ばれた大門素麺。荷くずれを防ぐために今の形が便利だった説。
どちらも運びやすさ、利便性から考えられた先人の知恵ですが、時の流れとともに、この形こそが大門素麺の象徴となりました。
丸められた麺は、流れが揃った一本一本の麺が美しく、横から見ると可愛いハート形をしています。
柔らかい半生状態の麺を、熟練の技でひとつひとつ手早く形作っていきます。
乾燥してしまうと形成できないので、作業は時間との戦いです。
柿里商店の職人で、形成の技術を持っているのは3人。
ベテランから若手へ伝統製法が受け継がれています。
形を作るため、大門素麺の麺の長さは一般的な麺の4倍近くあります。
パッケージにも記載されていますが、お召し上がりいただく際には、半分に割ってから茹でてください。
これを忘れると、麺が長過ぎて立って食べることになります。大門素麺あるあるですのでご注意ください。
二の謎 包装紙
大門素麺は、風合いのある和紙の包装紙に包まれ、茶色の紐で結ばれています。
パッケージのデザインには、小麦と素麺が描かれていて、日本らしさを感じられるこの包装は、海外のお客様にも人気があります。
珍しいのは、包装紙に生産者の名前が記されていること。
現在9軒の生産者がいますが、それぞれの名前が表記されており、だれが作ったかが、ひと目で分かるようになっています。
大門素麺好きのお客様の中には、生産者を指名して買い求めるお客様もいらっしゃいます。
作り手の名前を表記することで、お客様に生産者を身近に感じてもらえ、同時に180年の伝統を受け継いでいる特産品の信頼の証にもなっています。
ちなみに、生産者名に「佐藤朝乃」とあれば、それは柿里商店が作った大門素麺です。
三の謎 味
大門素麺は、手延べ麺です。小麦粉と塩、水を合わせた生地を、時間をかけて細くしていきます。
何度もよりをかけてゆっくり延べた麺は、熟成することにより小麦粉のグルテンが形成されます。
そのグルテンこそが、コシの強さを作り、手延べならではの歯ごたえやなめらかな喉越しを作ります。
機械で大量生産する麺には出せない味や食感で、熟練の職人の技によってのみ生み出される味なのです。
四の謎 希少価値
大門素麺は、作るのに多くの時間を費やします。
また、昔からの習わしで、一年で一番寒い時期にしか生産しない「寒造り」です。
機械を使い1年中稼働している大量生産の素麺に比べると、圧倒的に生産量が足りません。
現在およそ10軒の生産者が、冬の間は毎日大門素麺を生産していますが、後継者不足などの課題も多く、生産量が劇的に増えることはありません。
冬に作った大門素麺は、春に発売開始になりますが、生産量が少なかった年は、夏には完売になってしまうこともあります。
そのため、なかなか手に入りにくい「幻」の高級手延べ麺として、珍重されています。
まとめ
謎多き大門素麺。一つ一つの謎が、大門素麺の魅力であることが分かりました。
他に類を見ない歴史のある特産物を守るために、私たち生産者は、この先も大門素麺を作り続けます。
皆様にもお召し上がりいただければありがたく思います。